KDPの印税70%

日本でもようやくKDPの印税を70%にするオプションが稼働し始める。

個人的には使うことはないだろうが、使うならば他チャネルと絡めて使うと効果的だろう。

kdp

 

だが、これはAmazonに電書を独占配信させる「KDPセレクト」に登録したときの話だ。メリットを箇条書きにしてみよう。出版人はKDPセレクトに登録すると、他の電子書籍販売チャネルで販売できなくなるかわりに、登録期間の90日間を最長として、以下のメリットを受けられる。

  • Kindleユーザー限定レンタルサービスへの登録と分配金の受け取り
  • 90日のうち、5日の無料プロモーション実施
  • 日本、インド、ブラジルにおける70%ロイヤルティの獲得

独占させるデメリットの方も挙げてみよう。

  1. iBookstoreへ登録できない
  2. Google Playsへ登録できない
  3. パブー、BCCKS、ブログからのEPUB書き出しなどのサービスを利用できない

1.については、まだiBookstoreが日本でマーケットを開いていない現時点では考えても仕方がないので、開いた後のことを書いておこう。丁寧に告知を行えば、KDPの独占期間からiBookstoreでの公開までを、スムーズに繋ぐことが可能になるだろう。

iBookstoreの審査は長い。セルフ・パブリッシングでISBNがついてない書籍の場合、2週間は余裕でかかる。そして、レギュレーションに関する審査項目もなかなか厳しい指摘がやってくる。私の場合、表紙の中で模様のようにつかっていた英単語のスペルミスを指摘されたし、文中からのURLが公式サイトを示している部分で、競合するショップとして削除を求められた。そんなわけで、普通にやると、ひと月はかかるだろう。この期間をKDPセレクトに当ててしまえばいい。

そして、iBookstoreはKDPと異なり、審査が終わった後の公開日(そして価格変更のタイミング)をカレンダーで指定することができる。審査が終わっても即座に販売せず、Kindleでの動きが止まりそうな辺りを狙って、いいお日柄(これ、大事だよ)にKDPセレクトを停止し、iBookstoreでの同時販売キャンペーンを実施できる。iBookstoreのロイヤルティは70%なので、短期間の値下げを実施するのもありだろう。

2.のGoogle Playsだが、セルフ・パブリッシングが登録できそうな気がしないのでデメリットになりえない。

3.は深刻だ。KDPセレクトに登録するためにパブーやBCCKSでの販売を停止するのは……パブーやBCCKSの規約がそれを許容しているかどうか知らないが、持続的な方法ではないし、フェアな方法でもないだろう。

いずれにせよ、70%の魔法は90日で切れる。スタートブロックのようなものだ。旨く使えば発表前からSNSなどでプロモーションを実施し、購入準備のできた顧客を掻き集めておいて、レビューを投稿してもらったり、ブログのエントリーをたててもらったりするのには充分な期間だ。うまく立ち回れば2度ほどは山を作ることができるだろう。

私個人に関しては、次回作でもきっと使わないだろう。iBookstoreや公式サイト、そしてKoboイーブックストアでの補助的な販売力が、作品の公開時点で使えないのは合理的ではないからだ。

追記:私自身が使わないであろうことを、冒頭にも記載しました。

Creative Commons サンプリング ライセンス

CC Sampling

「派生著作物に限定したコンテンツ許諾」を実施したいという気持ちは、著作物を公開した者に共通の願いなのだろう。私だってGene Mapperでは、そうしたいと思っていた。購入者へ元原稿をCC-BYで公開することにしてから半年が経とうとしているが、今でもそんなライセンスがCCにあれば、と思うことはある。

しかし、Creative Commonsのような形態の利用許諾で、派生著作物に制限されたライセンスを実施するのは難しい。

過去、Creative CommonsにはSamplingという一連のライセンスがあった。著作の部分を用いて、原著作物から高度に変容された派生著作物の制作、頒布を許諾するものだ。

  1. Re-creativity permitted. You may create and reproduce
    Derivative Works, provided that:

    1. the Derivative Work(s) constitute a
      good-faith partial or recombined
      usage employing “sampling,” “collage,” “mash-up,” or other
      comparable artistic technique, whether now known or hereafter
      devised, that is highly transformative of the original, as
      appropriate to the medium, genre, and market niche; and
    2. Your Derivative Work(s) must only make a partial use of the
      original
      Work, or if You choose to use the original Work as a whole, You must
      either use the Work as an insubstantial portion of Your Derivative
      Work(s) or transform it into something substantially different from the
      original Work. In the case of a musical Work and/or audio recording, the
      mere
      synchronization (“synching”) of the Work with a moving image shall not be
      considered a transformation of the Work into something substantially
      different.

Creative Commons Sampling Plus 1.0より
太字下線はTaiyo Fujiiによるマークアップ

需要があるからこそ定義されたSamplingシリーズだが、派生著作物の許諾を行うために「部分」とか「高度な」のような語句を含めなければならなかった。CCの運営者も、このライセンスの取り扱いが難しいことはわかっていたのだろう。

現在のCreative CommonにSamplingシリーズは生き残っていない。

Celebrating Freesound 2.0, retiring Sampling+ licenses

 

Samplingライセンスは、原著作者から見ると素晴らしいライセンスだ。デッドコピーよる被害を防ぎ、著作物は二次的に利用してもらうことができる。冒頭の繰り返しになるが、そのような著作物許諾条件が作れれば、多くの著作者が迷うことなく利用するだろう。

だが、字義通りに運用しようとすると、部分がどの程度までを含むのか、高度とはどのような意味合いなのか、またどのようなコンテンツにも適用できるものだろうかといった議論を必ず孕んでしまう。上記のCreative Commonsのエントリーでも、音ネタのようなものの利用について「部分」をサンプリングし、「高度に」変容された状態にすることはとても自然な利用方法とはいえないと指摘されている。

小説ならばどうだろう。句読点と改行を改変し、特定のデバイスで「高度に」読みやすくなったものは派生著作物だろうか?一章ごとの「部分」を切り出したものは個別に許容されるだろうか?挿絵を挿入すれば「高度に変容した」ことにならないだろうか。

著作者が容認できない「派生著作物」の頒布者を相手どるときにはCC Samplingのような幅のある許諾条項をタテに争うよりも、不正競争防止法などで訴える方がなんぼかマシだ。それに、違法に取得した著作物のパッケージをデッドコピーして著作者に損害を与えている相手へ行う行動と変わりがない。

一対一での契約ならば、翻案のみを許諾して、いつでも停止させることができるような契約を結ぶことは普通に行われる。だが、Creative Commonsに通底する理念は、そのような勾配のある関係と相容れない部分があるのだろう。

著作者が恣意的な利用形態を決めるような利用許諾の条件が、コモンズと呼ばれるほど一般的に使えるところまで推し進められれば、より多くの著作物が利用されていくことは間違いない。販売プラットフォームを持ち、ライセンス料金まで簡単に支払えるようになれば、ちょっとした経済圏すらでき上がるのではないかとすら思うほどだ。

来年当たり、どこかで登場しそうな気もするね。

当ポストは著者のブログ Taiyo’s Lab より再掲しています。