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神経フィードバック

Written 6月 4th, 2013

 日本語で話ができているのも防護服の拡張現実OSがサポートしてくれている結果だ。ぶっきらぼうな対応に感じるが、これも有事の際に誤解を産まないためか。生命がかかった機器だけに細かいところまで実に良くできている。

「汚染地域まではもう少しだ。これから上り坂が続く」

「ありがとう」

「もう一度確認するが大丈夫か? 気分が悪いなら戻る」

 農場の視察に出たのは私と、この主任の二人きりだ。黒川さんがあんなことになったのはこの防護服のせいだと思っているらしく、十分とあけずに私の体調を気遣きづかってくれる。

 黒川さんの、あれは事故だ。あれだけ拡張現実を使いこなしている黒川さんなのだから注意すべきだったとも、予想できなかったともいえる。とにかく不幸な事故だ。拡張現実を肉体にフィードバックするサイバネティクス処置が深層まで及んでいたため、防護服が送り込む膨大なデータに過剰反応してしまったのだ。俗に「酔う」と言われる症状だがあそこまでの劇症は初めて見た。私のように聴覚フィードバックだけを受け取る程度のサイバネティクス処置ならば、気を失ったり痙攣したりするほどのことはまず起こらない。

Gene Mapper -core- 第六章より

『Gene Mapper -core-(セルフパブリッシュ版)』と早川書房から出版した『Gene Mapper -full build-』で若干説明している内容に違いがあるが、Gene Mapper世界ではアバターの姿勢を制御するために神経フィードバック・チップを埋め込んでいるという設定にしている。一般人ならば両手首、両足首、両内耳と喉の7カ所だ。チップはカプセルに封入され、人体通信(HMC)で神経網を通さない相互通信を行い、肉体の姿勢を拡張現実の処理装置に伝える(本作では具体的に記述していないが、コンタクトレンズと耳のチップに集約される)。体外に露出するジャックや脊髄などへの手術のような浸食性の高い方法ではなく、注射器で封入できるようなカプセルを使うことを考えたのはアップグレードが必要だろう、と考えたためだ。

そんな神経の状態を伝達する技術がふたつ、DARPA(国防高等研究計画局)のWebサイトで公開された。
Targeted muscle re-innervation (TMR)特定の筋肉を動かす神経を義肢と再接続し、失われた腕と同じように義手を動かしている。

Flat interface nerve electrode (FINE) は触覚のフィードバックを行う技術だ。

いずれも、元になるのはRE-NET(Reliable Neural-Interface Technology )というプログラムでDARPAの支援の元に開発が進められているのだが、正直なところ、ここまで神経による制御ができているとは思っていなかった。骨格筋程度ならば、全身のデータを読めるようなセンサーはもう数年もあればできあがってしまうんじゃないだろうか。

神経に直接接続するような大げさなセンサーの埋め込み手術には抵抗のある人も多いだろうけど、マウスやキーボードを不要にできる程度のジェスチャーを可能にするようなカプセル型のチップや装身具として身につけるブレスレットならば、埋め込みたい人はいるかもしれない。Gene Mapperで描いた拡張現実ワークスペースはそんな段階を経た後に現れてくるインターフェイスとして描いているのだけど、実現するのはどうやら私の予想よりも数年は早まりそうだ。

液晶を埋め込んだコンタクトレンズ

Written 12月 7th, 2012

 部屋に差し込む光の筋が小波さざなみのように揺れる。シーリングファンの風はブラインドを揺らして目を楽しませてくれるが、空気の流れは感じられない。高い天井に大きな窓、空間を贅沢に使った居心地のいいカンファレンス・ルームは、目の前で頭を下げている黒川さんも含めて、全てがコンタクトレンズに描き出された拡張現実だ。

「昨夜のメッセージは申し訳ありませんでした。起こしてしまいませんでしたか?」

 予告された会議はテーブルの向こうで黒川さんが両手を天板についたところから始まった。押し付けられた指が抵抗でかすかに歪んでいる。黒川さん、今日も気付きにくいところでっているな。私の机に合わせた台でも用意しているのか、それとも徹夜明けの疲れをアバターでおおかくしているのだろうか。

Gene Mapperでは、第一章の冒頭でコンタクトレンズへ投影される拡張現実が描かれる。このコラムでも「コンタクトレンズへの映像投影」というエントリーで、コンタクトレンズへ眼鏡から映像を投影し、実際の視界と映像を重ね合わせる技術を紹介したことがあるが、Tech Loungeの「Google Glassはもう古い?AR技術を搭載したコンタクトレンズが登場」で紹介されていたImec社リリースで発表された「拡張現実レンズ」は、Gene Mapperで描いた世界へまた一歩近づく技術だ。

コンタクトレンズへの映像投影というアイディア自体はそれほど突飛なものではなく、Innovega社の「iOptik」のように外部から投影する方法や、LEDを埋め込む手段などが検討されている。

このようなガジェットの未来を考えるのは楽しい。デバイスの動作に必要な電力をどのように供給するのか、データの転送はどのように行うのか、現実の像を「マスク」できる投影方式は……そして角膜や網膜などへダイレクトに像を送り込む方式はどうなるだろう。光を投影するだけでは、暗くマスクすることができないので、今回のimec社が提案しているような液晶と同時に用いなければない。あるときは不透明で電荷をかけると透明になったり発光したりするような素子というものがあれば最適なのだけど、手元の材料では探せそうもない。

データの転送について、既存の多くの研究は上のビデオ(6:32あたり、微かにLEDが光ります)のように、レンズに埋め込んだアンテナでデバイスを起動し、通信まで行う方式が有力視されているようだが、Gene MapperではHMC(人体通信)で身体に装着した各種のデバイスから映像が送り込まれてくる、ということにしている。マスクと発光は(それこそ小説に書いてはいないけれど)液晶と有機ELだろうか。

Gene Mapperの発表から半年が経ったのだが、現実世界の技術革新は予想よりも早いことを実感している。Imec社の液晶はまだ「液晶が湾曲したグラスに貼り付けられました」以上のものではないが、拡張現実の視覚投影に重要なマスキングを実施するのにどうしても必要な技術がこの段階で登場したのは驚きだ。

このままの速度で革新が続けば「メガネ」を飛ばして、拡張現実が一般化するかもしれない。

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