繁栄 マット・リドレー

2009年に日本語訳が発売された「繁栄(原題:Rational Optimist)」は「Gene Mapperジーン・マッパー」の精神的な支柱だ。

著者、マット・リドレーは「赤の女王」「ゲノムが語る23の物語」や「やわらかな遺伝子」など、進化論に関する優れた科学啓蒙書籍を世に出しているサイエンスライターだが、本書「繁栄」はジャレド・ダイアモンドを彷彿とさせる文化への思索へ踏み込んでいる。

原題を直訳すると「合理的な楽観論者」ということになるが、本書は、題名の通りにラディカルなほどの楽観的な論を展開している。邦題の「繁栄」も悪くない。リドレーは小気味好く、よく知られた悲観論を論破していく。だが、あいにくなことに、私がこの本を読み終えたのは2011年の3月9日、あの震災の2日前だった。

心地よい読書体験は地震と、そして制御を失った原子力発電所の映像で跡形もなく消え失せてしまった。私たちが依拠していた文明がこれほどに脆いものであったのか、2度の大きな事故を経ても、学習することなく、社会はそれを正視することもできないのか。

本書には描かれなかった、情緒に訴える反動的な活動への対処はどうすればいいのか。そんな停滞を吹き飛ばしてくれたのは、真摯な友人のブログや、多くの科学に携わる方々がセミナーで精力的に活動している姿、そして、再読した本書だった。

私には、科学が今までに積み上げてきたファクトやリサーチを統合して、この停滞した空気を、自分の周囲から、すら吹き飛ばす力がない。だけど、物語ならどうだろう。小説を書いたことはないけれど……そんな所から執筆を始めた。本書は「Gene Mapper」の精神的な支柱である。

リドレーが提案する「合理的な楽観主義」が、「Gene Mapper」を通して皆様に伝わっていれば、この上ない喜びだ。

未来の二つの顔

J.P.ホーガンが亡くなったのも、小説を書き始めるきっかけの一つだった。時代もあるのだろうが、彼が描いた作品には、科学と人間に対する絶対的な信頼がみなぎっていた。

そんなホーガンの作品の中で最も好きな作品が、この「未来の二つの顔」だ。星野之宣の「未来の二つの顔 (講談社漫画文庫)」で先に知ったのだけど、未来のシミュレーションを行う為に宇宙ステーションという閉鎖空間で反乱をけしかける骨太のサイエンス・フィクションだ。現在、星野氏が連載している「巨人シリーズ」には超越した宇宙人が登場するためか、ファンタジーの色合いが濃い気がするのだが、本作には私たちに備わっていない卓越した知性の助けはない。

そうであるからこそ、数多く登場する、様々な属性を持ったキャラクターたちがアイディアを交換し、未知なる困難へ立ち向かう姿は、コンピューターの描写が古くなった今でも一級のエンターテイメント小説の座を譲らない。

私たちが手に取れる物語の多くが描く未来は昏い。ディストピアとまで言えなくても、繁栄する未来を信じる力を感じられないもので溢れている。ホーガンが描いたような、力強い未来を信じたい。

そんな思いは伝わっただろうか。