天然の蒸留植物

 二〇一六年の東アジア飢饉ききんを引き起こした奴だ。この病気に耐性のない旧来レガシーのイネ科作物の種苗しゅびょうは飢饉の年に商取引禁止となり、二年後には多くの国でディスコンになっている。虫が媒介するような病気ならば退治して事なきを得たのだろうが、イネ赤錆病は鳥類が媒介していた。血の通った可愛らしい野生の生き物を抹殺する手段は検討すらされなかったという。

 実を結ばず枯れていくイネにとって代わったのが蒸留作物だ。L&Bのような酒造メーカーが醸造アルコールの原料として開発していたGMO遺伝子組み換えイネの多くは、人が食さないのをいいことに極端なコードの変更がなされていた。誰がやったか今となってはわからないが、出回っていたテンプレートの多くで赤錆病の受容体を発現するチャンクも削りとられていたのだ。これらを徹底的に調べ上げ、人間が食べられるようにコードを「蒸留Distilled」した第一世代の蒸留イネは、赤錆病への耐性を持っていただけでなく、日本を含む温帯でも四毛作が可能となり……

「Gene Mapper -core-」第一章より

「Gene Mapper」には「蒸留作物」と呼ばれる作物が登場する。DNAの不要な部分を人為的に削除し尽くし、すべての遺伝子が管理下に置かれた人工的な植物だ。作中では削除された不要な部分を、俗にジャンクDNAと呼ばれる、タンパク質がコードされていない部分であるかのように物語では語られている。ジャンクDNAと呼ばれているDNAの役割がまだ不明であることは承知の上での設定だ。そのつもりだった。

ところが、今日『Gene Mapper -full build-』の表紙イラストレーションを作成していただいたRey.Horiさんが驚くようなニュースを教えてくれた。この「ジャンク」DNAを捨てている植物が見つかったというのだ。

Carnivorous Plant Throws Out ‘Junk’ DNA

 

その植物はタヌキモ属の食虫植物Utricularia gibba、単細胞生物や極端な環境に生息する珪藻類などではない。かなり特殊な生態を持つとはいえ、普通と言っていい植物だ。

発表によるとUtricularia gibbaに含まれる8千万塩基対のDNAの97%がタンパク質をコードしているという。

多くの生物で80%ほどを占める「ジャンク」——non-coded DNAは何らかの役割を果たしているとして研究対象となっているが、そのほとんどを持たないUtricularia gibbaのDNAの解析結果は何を意味するのだろう。

やはり「ジャンク」はジャンクであり不要なのだろうか。それとも、ほかの生物とは異なる方法でnon-coded DNAの機能を補っているのだろうか。続く発表や追試の結果を追いかけてみたい。

サイン会とトークショウを行います

party『Gene Mapper -full build-』が発売されて、はや一週間が経とうとしています。新人の処女作でありながら、ミニフェアを実施していただいている書店や、はやくもありがたいレビューをいただきはじめているなど、市場や読者の皆さんの反応を日々楽しんでいます。

そんな中「サイン本」という声が上がってきましたので『Gene Mapper -full build-』の出版を記念して、サイン会を開催することにしました。

場所は下北沢の〈本屋B&B〉、開催日時は連休明けの5月7日20:00から2時間となります。詳しくは以下の要項をご覧ください。

『Gene Mapper -full build-』サイン会&トークナイト @下北沢B&B

当日は〈マガジン航〉の発行人でもあり、文芸評論家の仲俣暁生さんをお招きして、デジタルボーンからの商業出版デビューと『Gene Mapper -full build-』の創作について語るトークナイトも併せて行います。左の写真のような創作ノート、そして執筆環境であるScrivenerを持ち込み、実際にどのような環境でGene Mapperからのフルビルドが行われたのかを皆さんにお見せいたします。

『Gene Mapper -full build-』はセルフ・パブリッシングされた「Gene Mapper(後日、Gene Mapper -core-と改題します)」のストーリーラインを元に大きく改稿した作品なのですが、そこで新たに登場したキャラクターや扱っている事件の背景を描いたチャート図、キャラクターの検討を行うために描いたキャラクターシートなどをお見せする予定です。

話のお相手をしていただく仲俣さんはSFにももちろん深い造詣を持ち、早川書房より出版されている飛浩隆さんの『グラン・ヴァカンス』の文庫解説も寄稿されているので、作品世界そのものに対する鋭い指摘も行われることでしょう。

まだ『Gene Mapper -full build-』をお持ちでない方も、本屋B&Bでお買い求めいただけます。有料のイベントではありますが、たっぷり2時間のトークナイトはGene Mapper世界だけでなく、電子書籍からの商業出版デビューの状況、そして編集者とのコラボレーションが自力で出版したセルフパブリッシングとどのように違ったのか、これからインディな作家のチャレンジはどのような方法が考えられるのかなど、様々な視点でお楽しみいただけることでしょう。

お時間があるかたは是非とも連休明けに下北沢に足をお運びください。